介護施設の利用者様にとって、生活の中で大きな楽しみの一つが食事です。毎日の食事の満足度は、日常生活を楽しめるかどうかを大きく左右します。加齢とともに低下する咀嚼能力に対応した嚥下食、生活習慣病を患っている方に対する療養食など、利用者に合わせて柔軟に個別対応ができるかどうかは、施設を検討する際の重要な判断材料となります。
このようなニーズに応えるべく、施設側も「利用者様にできるだけ楽しい食事を」という思い入れを持って取り組んでいます。中国地方において2020年6月からHACCP(ハサップ)が義務化されたことにより、衛生面もより一層の注意が必要になりました。とはいえ介護施設の主目的は高齢者の介護ですので、食事に割けるスタッフや予算にも限りがあり、施設内調理で理想的な食事提供を実現できないケースも少なくありません。
そういったジレンマの解消に役立つのが「配食サービス」の利用です。施設のニーズに合った配食サービスを利用することで、味や栄養の品質安定、コストの削減など、多くのメリットが得られます。そして配食サービスを検討する際に注視すべきポイントが「調理システム」で、これによって食事の満足度やコストが大きく左右されます。
ここでは数ある調理システムの中から「クックチル」をご紹介します。クックチルは従来の食事提供が抱えていた諸問題を解消できる「新調理システム」の一つとして近年注目を集めており、昨今中国地方の配食サービス会社でも導入されています。メリットやデメリット、他の調理法との違いまでご紹介しますので、配食サービスの検討時にぜひご活用ください。
人手不足に伴う長時間労働や早朝出勤は、多くの介護施設が抱える課題です。また調理スタッフによる味のばらつきや、特定スタッフにしか作れないメニューなど、調理の属人化も効率低下の要因とされています。
このような諸問題を解決するシステムとして近年注目されているのが「新調理システム」です。新調理システムはHACCPにも対応しており、衛生面でも非常に安全性の高いものばかりです。
そんな新調理システムの代表的なものがクックチルです。クックチルを簡潔にご説明すると、調理した料理を一旦冷却し保存しておき、提供する際に再度加熱するというシステムになっています。調理場作業の効率化や、安全性が高く評価されており、中国地方においても介護施設や学校、病院のような大量調理が必要な現場で広く普及しています。昨今は小型の設備が登場したことで、飲食店や総菜店、菓子店などでもクックチルシステムが広く採用されています。
クックチルで料理を保存できる期間は、製造日から最大5日間になります。
クックチルは、食品を加熱調理した後90分以内に中心温度3℃以下まで急速冷却し、0〜3℃のチルド温度帯で衛生的に保管、そして食事提供のタイミングで再加熱する、という調理法です。クックチルでの調理後、料理の保存可能期間は提供日を含めて最大5日間になります。
クックチルなら食材の一括購入と大量調理が可能になり、食事の提供を効率化できます。ただし、厳しい温度管理が求められるほか、「冷却」から「再加熱」という作業工程に適合したキッチンが不可欠です。
さらに、クックチルは一般的な冷凍庫での保存方法と比較しても味や栄養分を保つことができ、食品の大きな劣化がありません。食品を急速冷却することで、食中毒の防止にもつながります。クックチルを活用することにより、作業の効率化をはじめ、衛生管理やコストダウンも期待できます。
従来の食事提供では、提供するタイミングに合わせて当日調理する方式、クックサーブが主流でした。しかし、クックサーブには下記のようないくつかの課題・デメリットがありました。
・加熱調理後は2時間以内に提供しなければならない
・保存ができず、廃棄が出やすい
・食事の形態や種類は様々であるため、作業が煩雑になりやすい
・衛生面で安全性の確保が困難である
・ピーク時には調理場に余裕がないため、人員的に提供が間に合わない
・調理スタッフの腕によって味にバラつきが出る
・曜日や時間帯によって忙しさにバラつきがあり、調理スタッフの配置が難しく、安定供給を目指すと人件コストがかかる
ただ、これらの課題はクックチルによって解決が可能です。
ではクックチルにはどのようなメリットがあり、なぜ上記のような課題の解決が可能なのか、詳しくご説明していきます。
クックチルは従来の調理システムであるクックサーブと比べて調理から提供までの工程に大きな違いが見られます。この違いは、衛生面・効率化の観点で大きなメリットを生み出します。
まず衛生面では、食中毒のリスクを下げ、安全性が確保できるメリットがあります。
冷却専用の機械を用いて食品を急速冷却することで、病原となる細菌や微生物が増殖しやすい60〜10℃の温度帯を短時間で通過させられます。これは衛生面だけでなく、味や栄養の面でも劣化を防げるという利点もあります。
特に、学校給食や病院食、介護施設など、栄養管理や衛生面の安全性が重視されるような現場では、クックチルシステムが活躍しています。セントラルキッチンで管理栄養士が考案したメニューを加熱調理・冷却し、病院や施設の調理場といったサテライトキッチンでは再加熱と盛り付けを行うだけ、といったシステムであるクックチルは、安全で美味しい料理の提供を実現しているのです
次に効率化の面では、品質が安定し、人件費や運送費といったコストの削減ができるといったメリットがあります。クックチルならレシピのマニュアル化・システム化が可能なので、調理スタッフによる品質のブレも解消できます。
また規定に沿った時間や温度の管理により最大5日間と比較的長期の保存ができるため、手の空いたタイミングで余分に料理を作るなど。状況に応じた調理が可能です。
そういった調理作業の平準化により、提供できるメニューの拡充や施設利用者様に寄り添った柔軟な対応に向けられる時間も生まれるでしょう。
提供の際は最終加熱するだけなので作業時間を大幅に短縮でき、ピーク時に提供が間に合わないといった問題も解消できます。施設の調理スタッフの早朝・土日出勤の緩和も期待でき、慢性的な人員不足が課題である介護施設などにとっては、人的コストの削減や、無理のない労働環境の整備にもつながります。
一方で、クックチルにはいくつかのデメリットもあります。
まずは、専用機器のスペースが必要である点です。クックチルシステムには急速冷却が必須ですが、ブラストチラーなど専用の冷却機器が必要になります。大量調理をするにはそれなりにサイズの大きな冷却機器が必要なので、スペースに余裕がなければ設置できず、物理的に導入不可能というケースもあります。
サービスの提供を受ける介護施設側が冷却機器を置く必要はないのでその点は心配いりませんが、届いた料理を再加熱できる設備は必要ですので注意しましょう。
クックチルは急速冷却・再加熱という調理工程を経る都合上、相性の良くないメニューがあります。一部の炒め物や焼き物、揚げ物などは再加熱した際に従来の品質を取り戻すのが難しいため、利用者からの需要があるメニューとクックチルとの相性を事前にチェックすることをおすすめします。
まとめて調理を行うためメニューがある程度固定され、配食サービスによってはバリエーションに富んだメニューの提供が難しい場合もあります。高品質ながらも味が均一化されることにより、現地調理と比べると料理の創意工夫や細かな味の表現などが難しい点はデメリットと言えます。
とはいえクックチルを導入した配食サービスでもバリエーション拡充に力を入れているところもあるので、献立の多様性を重視する場合はリサーチしてみましょう。
クックチルは、下記の工程で調理を進めます。
まずは食材の下処理や下味をつけるなど下ごしらえを行います。クックチルシステムで作業を効率化できれば、生まれた隙間時間を活用して下ごしらえが可能です。
盛り付け前の状態まで、下ごしらえを終えた食材の加熱調理を行います。加熱調理の段階で、水蒸気と熱風で加熱温度や時間を管理する「スチームコンベクションオーブン(スチコン)」を活用し、より生産性・安全性を高めます。
調理した食品をホテルパンなどに移してから、菌の繁殖を防ぐためブラストチラーなどの冷却機に入れ、冷風で急速冷却します。加熱調理から30分以内に料理の冷却に移行し、90分以内に料理の中心温度が3℃以下になるように冷却する必要があります。
病原となる菌や微生物を増やさないよう、0〜3℃の適温でチルド保存します。ここから提供日まで最大5日間の長期保存が可能です。
提供前にスチームコンベクションオーブンを使用し、再度中心温度75℃以上で1分以上加熱します。
最後に加熱した料理を盛り付けて完了です。最終加熱から2時間以内に提供できるよう、時間の調整が必要です。
「ニュークックチル」は、病院や介護施設での大量調理のために開発された、クックチルの応用版です。加熱調理後に急速冷却してチルド保存するところまではクックチルと共通していますが、この後の工程に大きな違いがあります。
クックチルでは配膳前に施設内で再加熱し、盛り付けをしてから配膳する流れになりますが、ニュークックチルではチルド状態で一人前ずつトレーに盛り付けを済ませます。盛り付け後の料理は再度チルド保存された状態で利用施設へ提供されるので、施設内では専用のカートでトレーごと再加熱を行えばそのまま提供が可能です。
クックチルと比べて、チルド状態で盛り付けをするので手袋を装着した状態で盛り付けられ、箸やトングを使うよりも素早い盛り付け作業ができます。
また再加熱から提供までの時間が短いため、細菌が繁殖する可能性を大幅に低減できるメリットがあります。そしてこれは食事の提供を受ける側にもメリットがあり、盛り付けに時間を要して料理が冷めることが無くなるため、配膳の直前に加熱された適温でより美味しい食事を楽しめるのです。
出来る限り調理の作業負担を軽減したい場合や、より衛生面の安全性が向上を目指す場合は、クックチル方式をさらに効率的かつ安全に運営するために誕生したニュークックチルがおすすめです。
「真空調理」はクックチルと同じく新調理システムの一つで、下処理が済んだ食材を調味料と一緒に真空袋に入れて真空包装し、袋のまま湯煎器やスチームコンベクションオーブンで加熱調理し、急速冷却または急速凍結をして提供前に再加熱する、というものです。
両社は一度加熱調理したものを急速冷却し提供前に再加熱するという点では同じですが、「食材と調味料を一緒に真空包装し、袋のまま加熱調理する」という点は真空調理ならではの特徴です。そのため真空調理ではクックチルの工程に「袋詰め」「真空包装」という手間が加わります。また食材や調味料を袋詰めする際には衛生手袋を着用し、直接食材に触れないなどの注意が必要です。
真空調理は、低温調理により煮物や蒸し物をやわらかくジューシーに仕上げられます。ただ、その調理特性上焼き物や揚げ物には適しません。一方で、クックチルは基本的にほとんどの調理に対応可能という幅広さがあります。クックチルにも一部の炒め物や揚げ物など苦手分野はありますが、適材適所で真空調理と組み合わせることで互いのメリットを活かせます。
真空調理とクックチルはどちらかといわず、両方の特徴を知り、メニューや目的等にあわせての柔軟な活用がおすすめです。
コストを抑えつつ満足度の高い配食サービスを選ぶには、施設の種類や規模に合った会社を選ぶことが重要です。
ここでは、100床以上の大規模施設、中規模施設、医療施設向けのおすすめ配食サービスをピックアップしてみました。
公式HPにてHACCP基準に対応しており、中国地方での導入事例が記載されている配食サービス会社より、編集チーム内の同一人物が各社の特徴を確認したうえで、施設種類・規模に合ったおすすめを定義しています(2021年5月調査時点)。
【100床~の大規模介護施設向け】ナリコマ...業界最大規模のセントラルキッチンを保有しており、1日30万食以上のクックチル食品を製造可能
【人手不足の中小規模介護施設向け】ほほえみ介護キッチンパートナー...スタッフ1人で30床、2.5人で100床の厨房を回せる「再加熱システム」を提供
【院内調理が必要な医療施設向け】広鉄二葉サービス...オーダーメイドの患者給食に対応し、広島でもっとも長く医療給食を提供してきたという実績を持つ