食中毒が発生した際、一番被害を受けやすいのは、抵抗力が弱い高齢者や子供です。介護施設の場合、食事をするのはその高齢者が対象ですので、特に慎重な衛生管理が必要となります。介護施設で食中毒が発生すると、命の危険が生じる可能性が高いからです。
ここでは、食中毒の原因は何か、介護施設における食中毒対策としてどういったことに取り組むべきかご説明します。近年中国地方において介護施設に義務化された衛生管理手法の基準「HACCP」に対応した調理法もご紹介しますので、配食サービスを検討する際にも参考にしてみてください。
夏場は気温や湿度が高くなるため、1年の中でも特に食中毒が発生しやすい時期です。夏はただでさえ暑さで体力を奪われやすい上、免疫力が低下している高齢者ともなると重篤な状態に陥るリスクが高く、十分に注意を払う必要があります。
また高齢者の特徴として、健康な人の場合だと発症まで至らない微量の細菌感染でも、食中毒を発症してしまうことが挙げられます。近年、老人介護施設においてO-157やノロウィルス等に集団感染した事例は少なくなく、特に介護施設は利用者様の特性上、年間を通じて感染を予防する意識を高く持つ必要があると言えるでしょう。
在宅生活を送る高齢者に対しては、家族や介護ヘルパーによる衛生的な食事の提供が求められますが、老人介護施設における食事の提供はひとつ間違えると食中毒の集団感染を引き起こす恐れがあるため、より一層徹底した対策が必要です。
食中毒の主な原因は細菌とウイルスで、いずれも加熱が不十分な食料品や飲料水で発生します。食中毒を引き起こす細菌の代表例として、カンピロバクターや腸管出血性大腸菌(O-157、O-111等)、サルモネラ菌があげられます。これらの感染源は肉や生野菜、卵といった食品です。
また、黄色ブドウ球菌のように人に潜み食べ物へと移るものもあり、加熱後に手作業を加える食品も食中毒の原因となるリスクがあります。細菌の多くは高温多湿の環境を好みます。例えばO157は、人間や動物の体温に近い35~40℃で最も活発に増殖します。そのため、夏や梅雨の時期は特に注意が必要となります。
食中毒を引き起こすウイルスの代表例としては、ノロウイルスやE型肝炎ウイルスが挙げられます。ウイルスは低温で乾燥した環境で長く生存するため、特に空気が乾燥する冬場に警戒が必要です。なかでもノロウイルスによる食中毒は大規模化しやすく、2017年に起きた食中毒の半数以上の原因はノロウイルスによ るものです。
食中毒を予防するためには、「つけない」「増やさない」「やっつける」という3つの原則を守り対策することが大切です。
手指を清潔に保つことが重要ですので、作業開始時や作業変更のタイミングで手を洗い、食材に直接触れる際は手袋を着用するなどの対策を行いましょう。
施設内で調理を行っている場合は、調理場の衛生管理を徹底し、施設関係者以外が簡単に立ち入れない構造をつくることが望ましいです。また、汚染された鶏肉を切った包丁で野菜を切ることで、野菜も汚染されてしまう、といった二次汚染の予防も大切です。包丁は肉や魚、果物や調理済み食品など用途別に使い分け、まな板もそれぞれ専用のものを用意しましょう。
調理従事者の感染から施設内に食中毒が拡がったケースもあるので、調理開始前の健康チェックも実施しましょう。配食サービスなど施設外で調理されたものを提供している場合は、搬入業者が大量調理施設マニュアルに準じた衛生管理を行っているかどうか注意しましょう。クックチルやニュークックチル、真空調理といった新調理システムは衛生面での安全性が高いため、これらの調理法を導入している配食サービスがおすすめです。盛り付けは健康なスタッフが行い、提供前の試食で異常がないかの確認も行いましょう。また、調理後は2時間以内に喫食できるような提供が必要です。
食品や調理済の料理は、適切な温度で保存しましょう。多くの細菌は20℃~50℃で増殖するため、この温度を避け低温域または高温域のどちらかで保管しましょう。冷蔵であれば10℃以下、保温する場合は65℃以上が望ましいです。
細菌・ウイルスを死滅させる手段としては、加熱調理が有効です。O-157やサルモネラ菌を防ぐには75℃以上、ノロウイルスを防ぐには85℃以上の温度で1分以上加熱する必要があります。また、調理器具は洗剤でよく洗ってから除菌漂白剤で除菌することも効果的です。
中国地方の介護施設において、2020年6月から「HACCP(ハサップ)に沿った衛生管理」が義務付けられることになりました。
HACCPとは食品衛生管理の手法の国際基準です。最終製品のみを検査し安全性を確認する、という従来の衛生管理とは異なり、HACCPなら食材の搬入時や調理中、配膳時などで食中毒菌の汚染や異物混入などのリスクがないかを確認し、これを軽減・除去することで食品の安全性を確保できます。
従来の調理システムでは衛生面での安全性の低さに課題がありましたが、クックチルやニュークックチル、真空調理などの新調理システムはHACCPに対応しているため、衛生面の課題を解消可能です。そのため、配食サービスの利用を検討する場合は、これらの調理法を導入しているものを選ぶことをおすすめします。
調理スタッフは手についた細菌が食品に付着することを防ぐために、調理前や作業の合間でこまめな手洗いを行いましょう。また使用する調理器具の洗浄消毒をしっかり行い二次汚染を防ぐことも大切です。調理後は食事を提供する時間まで異物混入がないよう密封し、新鮮且つ適切な温度での保管を徹底しましょう。
食事介助を行う介護スタッフは、介助前に必ず手洗いを行いましょう。また、利用者様にも食事前には手洗いをしていただけるよう呼びかけ、習慣化しましょう。嚥下や咀嚼に問題がある高齢者のため、ミキサー食への対応を施設内で行う場合、使用する調理器具がきちんと洗浄殺菌されたものであるか確認して使用しましょう。
また、食事時間内に食べ切れなかったものを自室に持ち帰らせないように気をつけ、食事が終わればすぐに下膳し、食べ残しの速やかな処分を徹底しましょう。利用者様に対して家族や知人から食品のお見舞い品が贈られることがありますが、賞味期限を過ぎていないか、生ものではないか等をさりげなく注視することも大切です。
食中毒の原因の一つに、食品表示の誤認によるものがございます。
「生」と記載のあった魚を、「加熱せずに食べても問題ない」と捉えてしまい、アニサキス食中毒にあたったという事例が報告されています。生は、生で食べられるという意味ではなく、冷凍ではないという意味です。生で食べられるものには、「生食用」や「刺身用」といった記載がされています。
このように、食品表示の捉え方を間違えによって食中毒になってしまうケースもありますので、介護施設内で調理を行っている場合は基本的な知識として食品表示法についても知っておく必要があるでしょう。
また、配食サービスを利用する際も、そういった食品表示がきちんとされているサービスは、しっかりと食品衛生法に基づいて管理されているといえますので、知っておいて損はありません。
加工食品には「一般用加工食品」と「業務用加工食品」がありますが、いずれの場合にも食品表示法による決まりがあります。
食品表示法において、食品は「加工食品」「生鮮食品」「添加物」の3つに区分されます。一般的に「加工食品」は、製造や加工などの工程を経ることにより、本質が変わったり、新たな属性が加わったりします。そのため、消費者は商品を見ただけでは原材料が何かという情報を得ることができません。
一方で、生鮮食品は収穫されてから消費者の手に渡るまでの流通過程で、加工食品のような変化をすることはありません。消費者は生鮮食品を見ただけで、その食品についての情報を得ることが可能です。
このような違いがあるため、加工食品と生鮮食品の区分が設けられており、加工食品には食品表示の義務もあるのです。
なお、添加物とは、食品を着色したり香り付けしたりなどの目的で使用されるものなので、加工食品や生鮮食品とは特性が違うために区分を別にしています。
加工食品の定義は、製造又は加工された飲食物として以下に掲げるものとされています。容器包装に入れられたものが対象となります。
消費者向けに販売する際に、表示が必要となるのは9項目あります。それぞれ説明していきます。
ここでいう「名称」とは商品名のことではなく、加工食品の内容を表す一般的な名称を表示します。ただし、乳(生乳、生山羊乳、生めん羊乳及び生水牛乳を除く)及び乳製品は、乳及び乳製品の成分規格等に関する省令第2条の定義に従うこと、とされています。
食品の特性に従い、開封前の保存方法を表示します。例えば「直射日光を避け、常温で保存すること」「10℃以下で保存すること」などです。
品質が急速に劣化する食品には「消費期限」、それ以外には「賞味期限」を表示します。
①製造又は加工した日から、消費期限又は賞味期限までの期間が3ヶ月以内のものは、次のいずれかの方法で表示します。
ア)令和4年01月21日
イ)04.01.21
ウ)2022.01.21
エ)22.01.21
②製造又は加工した日から、賞味期限までの期間が3ヶ月を超えるものは、次のいずれかでも表示できます。
ア)令和4年1月
イ)04.01
ウ)2022.01
エ)22.01
原材料に占める重量の割合が高いものから順に、その最も一般的な名称を表示します。中間加工原料を使用した場合は、原則、最終製品を製造する事業者が使用する状態の原材料を、一般的な名称で表示することになります。そのため、加工原料を用いて製品を製造した場合には、当該加工原料の一般的な名称を表示します。
内容重量、内容体積又は内容数量を「g(グラム)」「ml(ミリリットル)」「個数」など、単位を明記して表示します。
また缶詰など固形物に充てん液を加えて密封したものは、固形量や内容総量を表示する場合があります。
容器包装に入れられた消費者向けの加工食品には、熱量、たんぱく質、脂質、炭水化物及びナトリウムの量の表示が必要です。
栄養成分の量及び熱量については、100g、100ml、一食分、一包装などの「食品単位」辺りの量を表示します。
食品関連事業者のうち、表示内容に責任を有する者の氏名又は名称及び住所を表示します。基本的に表示内容に責任を有する者が製造業者なら「製造者」、加工業者なら「加工者」、輸入業者なら「輸入者」と表示します。なお、これらの合意等により、これらの者に替わって販売業者が表示する場合は「販売者」となります。
原則として、製造所又は加工所の所在地、製造者又は加工者も氏名または名称を表示します。輸入品の場合は、輸入業者の営業所の所在地、輸入業者の氏名又は名称を表示となります。
乳製品は乳処理場の所在地、乳処理業者の氏名又は名称を、特別牛乳は特別牛乳搾取処理場の所在地、特別牛乳搾取処理業者の氏名又は名称を表示します。
栄養強化の目的で使用されるもの、加工助剤、キャリーオーバーを除き、添加物に占める重量の割合の高いものから順に、その添加物の物質名を表示します。物質名の表示には、一般的に広く使用されている名称又は一括名を表示できます。
アレルギーの原因となる抗原であるアレルゲンは、食品表示基準に掲げられた表示義務のある「特定原材料」と「特定原材料に準ずるもの」に分けられます。
①特定原材料(7品目)
えび、かに、小麦、そば、卵、乳、落花生(ピーナッツ)
②特定原材料に準ずるもの(21品目)
アーモンド、あわび、いか、いくら、オレンジ、カシューナッツ、キウイフルーツ、牛肉、くるみ、ごま、さけ、さば、大豆、鶏肉、バナナ、豚肉、まつたけ、もも、やまいも、りんご、ゼラチン
これらの食品を原材料として含んでいる場合や、添加物として含んでいる場合にはアレルゲン表示が必要です。
また、同一製造ラインでアレルゲン食品を使用している場合や、原材料の採取方法によってアレルゲンが混入している場合、原材料となる生物がえび、かにを捕食している場合などは、注意喚起表示をすることが求められます。
2020年4月1日から食品表示制度が新しく施行され、栄養成分表示が義務化されました。容器包装に入れられた一般加工食品及び添加物には、栄養成分の量及び熱量を表示する必要があります。
また、強調して表示する場合には、含有量が一定の基準を満たさなければなりません。
では、具体的に表示の方法を見ていきましょう。
栄養成分表示が義務化された栄養成分は、以下の5種類です。
食品単位の数値を表示し、ナトリウムの場合は「食塩相当量」で表示します。
栄養成分および熱量の順は変更できません。
容器包装を開かなくても消費者が見ることができるように、商品の容器包装の見やすい場所に表示します。
消費者がわかりやすい日本語で、正確に記載します。なお、栄養成分表示に用いる名称は、下記のようにも表示できます。
表示事項は、原則として8ポイント以上の大きさの文字で記載します。ただし、表示可能面積が150㎠以下の場合は、5.5ポイント以上の大きさの文字でも記載できます。
食品表示法とは、消費者が安全で身体に良い食品をわかりやすく選べるように、食品の安全性や機能性について表示するよう定めた法律です。
食品の表示方法や用語を統一し、表示の必要性が高い項目の表示基準を明確化。2020年に施行された際には、原則として一般用加工食品及び一般用添加物には栄養成分表示が義務づけられました。
栄養成分表示は、消費者自身が健康で栄養バランスのよい食生活を送ることが重要であることを意識し、商品の選択に役立てられるよう期待されています。
食品を販売する事業者は、ガイドラインをしっかり活用し、消費者が食生活によって健康を保てるよう適切な栄養成分表示の実施に努めなければなりません。介護施設で配食サービスを利用する際もガイドラインに沿ったサービスを提供しているかどうかはチェックしておいたほうがいいでしょう。
詳しくは、消費庁が作成したガイドラインをご覧ください。
2020年6月から義務化が始まり、2021年6月より完全義務化となったHACCP(ハサップ)。HACCPとは「Hazard Analysis Critical Control Point」の頭文字を取った略語で、食品の加工・製造における安全性を高めるための国際的な衛生管理方法です。
先進国の中でも導入が遅れていた日本ですが、2018年6月に大幅改正された「食品衛生法」の7つの項目の中に、「HACCPに沿った衛生管理の制度化」があり、2021年6月に完全義務化となりました。
もともとはアメリカのアポロ計画で構想されたもので、宇宙食の安全性を担保するために導入されました。現在HACCPは、国際的な基準となり制度化されています。
HACCPに沿った衛生管理を遵守することで、リコールや食中毒などによる営業停止といった不足の事態を回避できるとともに、作業効率のアップや保健所の検査負担が減少するなどのメリットがあります。
食品表示にはルールがあり、消費者が原材料や賞味期限、アレルゲンなどを確認できるようになっています。産地の表示や事業者などの表示もあるので、消費者は安全性を確認してから購入できるのです。
食品表示の中でも特に重要視されているのが栄養成分表示です。栄養管理が必要な病気がある人はもちろん、健康な食生活を保つ上でも、摂取する成分とその量を知ることは大切なこと。食物アレルギーのある人にとっては、命にも関わる重要事項です。
介護施設では、提供する食品を選ぶとき、配食サービスを検討するときなど、食品表示を確認するタイミングは多々あり、すべてのタイミングでチェックするのは難しいと思いますが、栄養成分やその量、安全性などを簡単に確かめてから購入を検討するようにしましょう。
食品の中身は問題なくても、食品表示のミスや齟齬などによって景品表示法や不正競争防止法違反となる場合があります。悪質な場合は課徴金納付命令がでる可能性も。その実例を紹介します。
コンビニで販売する食パンに「バター」「もっちり」等の商品名のものがありました。しかしながら、原材料にはバターももち米粉も使用されておらず、優良誤認表示として景品表示法に違反、措置命令を受けました。
粉末飲料の販売にあたり「国民生活センター」による試験の結果、その商品にポリフェノール含有量が日本一のお茶と認められているかのように表示されていました。しかし、実際には国民生活センターはそのような試験を行っていませんでした。
また、人体に有益なポリフェノール等の成分が、赤ワインと比較して多量に含まれているかのように表示されていました。実際には、比較した赤ワイン等の100g辺りのポリフェノール含有量を大きく下回っていました。
食品の純度や成分の含有量について過大な表示を行った場合には、食品表示法、景品表示法、不正競争防止法に違反となる恐れがあります。このケースでは措置命令が出されました。
唐揚げの販売において、店舗の看板には「国産若鶏使用 絶品あげたて」と記載し、国産の鶏もも肉を使っているかのように表示していました。ところが、実際にはほとんどがブラジル産となっており、異なる原産国・原産地を記載したとして食品表示法違反となりました。ほかにも景品表示法、不正競争防止法にも違反する恐れがあります。この場合には措置命令が出されました。
菜の花畑等となたね油に添加物や化学薬品(苛性ソーダ・シュウ酸)等が使用されていないかのような表示をしていましたが、リン酸、クエン酸、白土等が使用されていました。
また、ごまの販売において商品が「鹿児島県産」「九州産」「鹿児島県の白ごまを使用しています」「原料原産地名 鹿児島産」等と表示されていました。しかし外国のごまが含まれていました。
このようにアレルゲン・食品添加物等を記載しなかった場合や、誤ったアレルゲン・商品添加物を表示した場合は、食品表示法、景品表示法、不正競争防止法、食品衛生法に違反する恐れがあります。
この場合は措置命令と、課徴金納付命令(793万円)が出されました。
食中毒は衛生面の管理と、食品表示に対する知識で防ぐことができます。
介護施設や飲食店だけでなく、家庭でもHACCPを用いた食品衛生管理が謳われるようになってきていますので、ぜひこの機会に意識して今の環境を見直してください。
コストを抑えつつ満足度の高い配食サービスを選ぶには、施設の種類や規模に合った会社を選ぶことが重要です。
ここでは、100床以上の大規模施設、中規模施設、医療施設向けのおすすめ配食サービスをピックアップしてみました。
公式HPにてHACCP基準に対応しており、中国地方での導入事例が記載されている配食サービス会社より、編集チーム内の同一人物が各社の特徴を確認したうえで、施設種類・規模に合ったおすすめを定義しています(2021年5月調査時点)。
【100床~の大規模介護施設向け】ナリコマ...業界最大規模のセントラルキッチンを保有しており、1日30万食以上のクックチル食品を製造可能
【人手不足の中小規模介護施設向け】ほほえみ介護キッチンパートナー...スタッフ1人で30床、2.5人で100床の厨房を回せる「再加熱システム」を提供
【院内調理が必要な医療施設向け】広鉄二葉サービス...オーダーメイドの患者給食に対応し、広島でもっとも長く医療給食を提供してきたという実績を持つ